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山岳コラム
伊東 亨
”自分を感じる”大自然の中
1982年3月、高翼プロペラ機のタラップを降り、初めてチベット(正式名・中国西蔵自治区)の土を踏んだ。

省都ラサ市まで車で2時間、約100キロメートルのコンガ空港である。未舗装の道の両端には幼木が植えられ、川端の岩床の黒い塊は、小さい「サソリ」の大群であった。

2、3回目は登山終了後、秘境東チベットへフジテレビと畑正憲氏(ムツゴロウ)を同行して入ったが、外国人として正式許可の第一号である。以来、回数を重ね昨年は3回、今年は5回と、ついにチベット入域は30回を越えてしまった。

ジャリ道の両側に野花が咲き乱れ、オニヤンマが手の届くところを飛びかっていた。

眼前に少年のころの日本の田園風景が突然あらわれたりする。人の手が加えられない大自然の中に身を置く時、なぜか最も私らしさを感じる。

スローライフの本当の意味は、そういう自分を感じることができる時間を持てることではないだろうか。
チベットの写真
高所でひしひし 空気の大切さ実感
チベットの写真
チベットの写真
この四半世紀、チベットは激変の一言に尽きる変ぼうを遂げた。1980年に外国人にその一部を開放し、85年にラサ市に第一号のホテルができたが、20年前、人口6万人のラサ市は現在30万人。ホテル、百貨店、スーパー、病院などが完備した近代都市へと成長。

日本の3.5倍の広さにわずか250万人の人が住むチベットは、確実に近代化の道を歩んでいるといえる。

ラサ市やコンガ空港の高度は3600メートル以上、海抜600メートルの成都市から1時間40分で着陸するが、大抵の人が高山病の洗礼を受けることになる。

大気圧は 緯度や気温にもよるが、5300メートルで海面のほぼ半分になる。飛行中機内の気圧は通常1700メートルの高度に保たれているが、コンガ空港到着15分前から次第に空気を抜き、空港着陸時に3600メートルの大気圧になるように調整している。

高山病の諸症状はこの時から始まる。通常は頭痛、吐き気、食欲不振などが2〜3日は続く。

簡単に言えば、人間の血液が低酸素の大気の呼吸でも、体内の各部に必要な酸素を供給できるようになれば高所順化ができたことになる。

登山隊では、ベースキャンプが4500〜4800メートル、前進キャンプが約5500メートルと高度を上げ、6000メートル前後の未踏峰に登っている。今までの中高年未踏峰登山隊のメンバーは60歳から76歳。全国から集まり、7割が登頂に成功している。

登れない人の原因の大半は、体力不足と高所順化である。高所順化のできなかった人は、ラサ市の病院へ車で搬送し入院しているが、手当が遅れると、肺水腫、脳水腫など致命的な病状を引き起こすことになる。

高所で実感するのが空気の大切さである。

低地では全く忘れられている空気の重要性を、ひしひしと感じらさせられる。

帰国したら大気を清潔に保つ、ひいては地球環境の保護運動に積極的にかかわりたいと全員が話している。
環境保護運動にも一段と力
10月、ラサ市で買い物をしたが、袋に入れてくれない。

「袋をくれ」と言うと、ビニール袋は環境保護のため使ってはいけないと行政当局から命令があったとのことである。

使用禁止とはいかにも中国的発想だと思うが、空港道路の幼木は大きく育ち、樹木の伐採を全面的に禁止するチベットの環境への対応を考えると、いつまでたってもタバコのポイ捨て、車のアイドリングさえやめられない日本の現状には失望せざるを得ない。




日本山岳協会 大分県山岳連盟参与
伊東 亨

大分合同新聞(朝刊)
2004年(平成16年)11月14日(日)掲載より
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